書籍『ノニーン!幸せ気分はフィンランド流』 刊行&著者来日記念 スサンナ ペッテルソン × 迫村 裕子 × 皆川 明 トークイベント レポート
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書籍『ノニーン!幸せ気分はフィンランド流』 刊行&著者来日記念
スサンナ ペッテルソン × 迫村 裕子 × 皆川 明 トークイベント
2023年2月28日 代官山蔦屋書店にて実施
カルチュア・エンタテインメント株式会社 ネコ・パブリッシング事業部は2月28日(火)、代官山蔦屋書店にて、書籍『ノニーン!幸せ気分はフィンランド流』の発売を記念し、フィンランド人著者でスウェーデン国立美術館館長のスサンナ ペッテルソン氏(美術史家、博士)と共著者で文化プロデューサーの迫村 裕子氏、ゲストに「ミナ ペルホネン」デザイナーの皆川 明氏を迎えた3人によるトークイベントを開催いたしました。
この日は、「ハードな日々を救うアートな瞬間 ビューティフル・モーメント」をテーマに、ゲストの皆川明氏が書籍の中から気になるトピックを取り出しながら、著者の二人に質問を重ねていくスタイルで進行。3人はプライベートでも親交が深く、イベント前日にも皆川氏の会社の保養所である山の麓の家で一緒に過ごしたそうで、そんな3人ならではの温かく和やかな雰囲気の中、示唆に富んだ豊かなトークが展開されました。
「仕事は何と言ってもチームプレー」
皆川氏が、まず聞きたいと選んだのが「仕事は何と言ってもチームプレー」というトピック。
スウェーデン国立美術館、フィンランドのアテネウム美術館と、北欧の重要な美術館の館長を務めてきたペッテルソン氏も、若いころは集団で動くことが苦手で、仕事をする中でチームプレーの大切さを理解するようになりました。5年前、ペッテルソン氏がスウェーデン国立美術館館長に就任すると、「館長室の扉をいつでも開けておくからなんでも話しにきてほしい」とスタッフに宣言したそうです。しかし、それでも不十分だからと、スタッフと席を並べて仕事をすることに落ち着いたのだとか。「チームを作るということは、常に他者のことを気にかけ耳を傾ける時間を取るということだと思っている」とペッテルソン氏は言います。
迫村氏は「スサンナさんらしいエピソードだと思う。北欧諸国の人たちと仕事をすると“オープン”“オネスト”“フラット”の3つを感じる。特に、スサンナさんや数々のプロジェクトを通じて、フラットであるとはどういうことかを教わったと思っている」と話しました。皆川氏も、ペッテルソン氏とともに働くスタッフがうれしそうに彼女の話をしていたことについて触れ、どんな立場の人も敬いフラットに接しているペッテルソン氏らしいエピソードとして紹介しました。
次に選んだトピックは「あなたが喜んでくれると私もうれしい」。皆川氏が日本の「利他」の考えを引き合いに出しながら、ペッテルソン氏に考えを聞くと「幸せの出発点は、自分をリスペクトして愛すること。それができて初めて楽しみや喜びなどを他者と共有できるのではないか。例えば空に浮かぶ雲や通りすがりの犬といった、日々の小さなことにも幸せを感じたり、感じようとすることで、自分のメンタリティが変わって一日を気持ちよく過ごせると思う」と述べました。
「世界一幸せな国」と言われるフィンランド
ヘルシンキにある皆川氏のお気に入りのカフェでは、お客さんがコーヒーのお替わりをすると、お店からコインがもらえるそうで、「“お替わりをしてくれてありがとう”と言ってくれているようで、“ありがとう”と思ってもらえたことがうれしくなる」と、皆川氏。フィンランドではこのように、日常のささいなことに喜びを作ったり、暮らしの中に楽しさのスイッチを入れてくれたり、そんなところが「世界一幸せな国」と言われる理由ではないかと話しました。
迫村氏も「フィンランドは首都のヘルシンキでも人口は60万人ほどで、大都会の様相がありながらどこかゆったりとした時間が流れていてその時間がとても心地良い。東京にいると先々まで“段取り”を考えてしまうが、フィンランドでは立ち止まって自分や日々のことを考える余裕が生まれる」とフィンランドにいると得られる心地良さについて語りました。
「信頼されて子どもは育つ」
話題は子育て、教育へ。「信頼されて子どもは育つ」というトピックから、ペッテルソン氏が例にあげたのが、幼少期に二人の祖父から教わったこと。一人からは、6歳のときに、釣りの仕方だけでなく、釣った魚をナイフでさばく方法まで教えてもらったり、学者の祖父からは、5~7歳の子どもたちには難しい学問の話でも、わからないなりに理解できることが少しはあるかもしれないと話をしてもらったりと、「大人から信頼されることがいかに素晴らしいことかを学んだ」と言います。家族からは人生の選択について口出しされたことが一切なく、常に力づけてくれたことから自分の子どもたちにも「心から信頼している、どんなことがあっても愛している」と伝えているそうです。
迫村氏は、子どもの受験でのエピソードで、「失敗させたくない」という親心から受験校を勧めたことで、のちに子どもから「失敗させてくれなかったね」と言われてしまったと自身の子育てを振り返り、「失敗してもいいよ」と親が言えることが大切だとの話がありました。皆川氏も「失敗することも経験である」と伝えられたら、子どもは個性を伸ばしながら成長していけるのではないか、本の中にも書かれているように、失敗しない人生こそ失敗なのではないか、と言葉を継ぎました。
トークは、その後も「コーヒーはコミュニケーションの潤滑油」「日々のささいなことに幸せを感じる」といったテーマにおよび、そして来年2024年に皆川氏の手がけるブランド「ミナ ペルホネン」の展覧会が、スウェーデン国立美術館にて行われることも発表されました。皆川氏は、「19歳で初めてスウェーデンに行ったとき、宿泊したドミトリーがスウェーデン国立美術館の近くだった。学生パスを使って毎日のように通った場所で、何十年もたって展覧会が開けるなんて夢のようだ」とご縁に感謝されました。
この展覧会ではペッテルソン氏がキュレーションの中心を担い、図録に掲載される論考も書かれるそうで、このたびの来日の目的のひとつには、皆川氏に直接インタビューして書き上げたいという思いがあったとのこと。「(このイベント前)山の麓でともに過ごし、今朝は周辺の小さな池を一緒に散歩した。朝日の中できらめく水面のあまりの美しさに一緒に見入った時間は一生忘れられないと思う」(皆川)、「まさに『魔法の瞬間』だった」(ペッテルソン)、「素晴らしい時間だった。散歩をしたことでインタビューの内容により広がりがでた」(迫村)と、自然がもたらした小さな美しい瞬間が、来年の展覧会へ大きくつながっていくであろうことが大いに感じられました。
最後に、皆川氏から両著者に日本の若者へのメッセージを問われると、「Be Curious, Take Risk(好奇心を持って、リスクをとって)」(ペッテルソン)、「会社、家庭、学校など、どんなところでもフラットな関係を築けること、それを見つけることが大切」(迫村)とそれぞれが語り、皆川氏は「本書は、今日のイベントのようにスサンナさんと迫村さんの対話形式で書かれているので、その対話に参加している感覚で読んでほしい。それをきっかけにフィンランドやスウェーデン、そこにある暮らしにまで関心をもって、日々を楽しんでほしい」と締めくくりました。
登壇者プロフィール
■著者
スサンナ ペッテルソン氏(スウェーデン国立美術館館長)
美術史家、博士。ユヴァスキュラ大学非常勤講師、美術館に関する国際的な専門調査委員会に属し、ノーベルセンター財団などの評議員も務める。
迫村 裕子氏(文化プロデューサー)
国際的な美術展や文化プロジェクトの企画運営に携わる。主にフィンランドやスウェーデンなど北欧に特化。「みんなちがってみんないい」をモットーに教壇にも立つ。S2株式会社代表。絵本や翻訳書の著作もあり。
■ゲスト
皆川 明氏(デザイナー)
デザイナー。1995年に「minä perhonen」の前身である「minä」を設立。ハンドドローイングを主とする手作業の図案によるテキスタイルデザインを中心に、衣服をはじめ、家具や器、店舗や宿の空間ディレクションなど、日常に寄り添うデザイン活動を行っている。デンマークのKvadrat、スウェーデンのKLIPPANなどのテキスタイルブランド、イタリアの陶磁器ブランドGINORI 1735へのデザイン提供、新聞・雑誌の挿画なども手掛ける。
書誌情報
『ノニーン!幸せ気分はフィンランド流』
世界幸福度ランキング5年連続1位フィンランド、54位日本(2022年)。
第一弾では生活のちょっとしたことだけどあまり知られていないフィンランドのことを紹介しました。
今回の新作は著者お二人の専門分野である「美術」を通し、北欧と日本との共通点や相違点を探りながら、コロナ禍を経験して改めて問い直す日々の暮らし、生活の知恵、仕事のスタイル、フィーカの時間など、先を明るく見る姿勢を美しいビジュアルと短い歯切れの良い文章で紹介します。
~ノニーン(no niin) とは~
ノニーンは、フィンランド人が毎日使っている「あいづち」のような言葉。声のトーンや言い方によって、いろんな気持ち、意味合いを表現でき、日本語の「そう」「へぇ」「まぁ」の感じと似ています。使いこなすことができれば、あなたもフィンランド通になれるかも?
著者:スサンナ ペッテルソン、迫村裕子
定価:1760円(税込)
発売日:2023年1月31日
ISBN:978-4-7770-5488-6
出版社:カルチュア・エンタテインメント株式会社 ネコ・パブリッシング事業部