Interview
「First Love 初恋」担当プロデューサーが語る舞台裏。
昨年11月24日に配信開始後、世界中で大きな反響を呼んだNetflixシリーズ「First Love 初恋」。満島ひかりさん、佐藤健さん演じるふたりの主人公が、宇多田ヒカルさんの同名曲に合わせて紡ぐ究極のラブストーリーは、視聴者の心に深い感動と共感を呼び起こしました。
この作品のプロデューサーを務めたのは、ドラマ「重版出来!」「わたし、定時で帰ります。」ほか、映画「イチケイのカラス」などを手掛けたC&Iエンタテインメントの八尾香澄さん。八尾プロデューサーに本作の魅力、舞台裏についてたっぷり語っていただきました。
Netflixシリーズ「First Love 初恋」
Netflixにて独占配信中。
■プロフィール
八尾 香澄(やお・かすみ)
C&Iエンタテインメント所属。
主な担当作品にドラマ『重版出来!』『わたし、定時で帰ります。』、映画『坂道のアポロン』『ひるなかの流星』『潔く柔く』『イチケイのカラス』などがある。
最新作はドラマ『パリピ孔明』が9月27日より毎週水曜よる10時、フジテレビ系にて放送!
作品の成り立ちと、どのように関わったかを教えてください。
photography: Netflix
企画の立ち上げは、エグゼクティブ・プロデューサーであるNetflixの坂本(和隆)さんが寒竹(ゆり)さんに監督・脚本を依頼したところから始まっています。私は2019年春頃、寒竹さんに誘われ参加しました。坂本さんが宇多田ヒカルさんの1999年に発売された楽曲「First Love」から2018年に発売された「初恋」までの歳月を描くという企画のコンセプトを作り、そこからストーリーをディティールに落とし込み、具体化させるのが脚本家である寒竹さんの役割。私は、そのディティールを詰めていく過程をサポートし、この企画がゴールまで辿り着けるように企画に寄り添う役割でした。大枠のプロットラインは寒竹さんの中で既に決まっていたのですが、脚本にする過程で必要な取材の段取りや、不足している要素のアイデア出しなど、作業は多岐に渡りました。脚本作りをしながら、並行してキャスティングやスタッフィングなどを進めるのがプロデューサーとしての仕事です。
最初に企画内容を聞いた時、物語を作るアプローチ方法が面白いと思いました。宇多田ヒカルさんの「First Love」と「初恋」という2曲からインスパイアされた作品ですが、歌詞を物語に落とし込むのではなく、宇多田ヒカルさんという同世代のアーティストの登場に、憧れや焦りを感じた主人公と、宇多田さんの楽曲そのものが主人公たちの思い出とリンクするというアプローチ。音楽が持つ計り知れないパワーを信じた作品だと思いました。
歌詞をなぞっているわけではないですが、脚本の中には宇多田さんの歌詞世界にある人間の理性では説明できない肉体の反応、様々なピースが埋め込まれています。「初恋」の歌詞にある「うるさいほどに高鳴る胸が 柄にもなく竦む足が今 静かに頬を伝う涙が」などはまさにこの作品のスタート地点だと感じています。企画当初から、第六感も含めた五感の話にしようという話があり、味覚、触覚、視覚、嗅覚、そして聴覚がこの作品の肝です。青春時代の音楽の記憶というのは身体に刻まれているもので、寒竹さんもNetflixの坂本さんも私も宇多田ヒカルさんと同世代なのですが、実際に「Automatic」や「First Love」が発売された当時のことは我々の世代では皆覚えていて、あの頃どうだったというのを言い合えるような、エポックメイキングな存在でした。本作はオリジナルなので自由度がある分、大変なこともありましたが、とても良い形で作品として仕上げることができたと感じています。
配信開始後の反響はすごかったと思いますが、それらの声を聞いてどのように感じていますか。
純粋に嬉しいですね。作り終えた段階で手応えのようなものはあったので、希望的観測も含めて(笑)、きっと話題になるはず!!と信じていました。実際に、久しく会っていなかった方からご連絡をいただいたり、香港や台湾の方が会いに来てくださったり、想像していた以上の反響がありました。色々な国の方々が独自の考察をされていて、気づいて欲しいと思っていた伏線を発見してくださったり、意図してなかった深読みもあったりと面白いです。配信から2ヶ月以上経っても、熱っぽく感想を語ってくださる方が多くて、とにかく幸せです。
海外でも多くの方々にご視聴頂いたことをどのように感じていますか。
特にアジアの方々に多くご覧いただいたようです。香港と台湾は日々のTOP10で1位になったり、またカタールやフィリピン、タイなど色々な国の方から反響がありました。数年前、「重版出来!」という作品で初めてテレビドラマを手掛けた時、当時住んでいた家の不動産屋さんから 「ドラマで名前を見ました!」と言われて地上波ドラマの影響力すごい!と驚いたことがあるのですが、映画とはまた違う広がり方、反響の大きさを実感しました。それが世界レベルで起きていて、Netflix作品が全世界で配信される喜びはここにあるのだなと感じます。また、中国語や韓国語など様々な言語に字幕対応し、吹き替えでも英語とポルトガル語で聴くことができます。試しに他国語バージョンで観たりして、日本語の作品を他言語で観るのは初めての体験だったので、不思議な感覚を味わったりもしました。
photography: Netflix
フィジカルを強く意識した作品だからこそ、言語や文化・慣習などを乗り越えて多くの方々に響いた作品となったのでは。
海外の方々が本作をどう受け止めているのか、勿論一様ではないと思いますが、本作が受け入れられた要因の一つとして、この物語が描いた「フィジカルな部分」があるのではと考察しています。頭で説明できない感情の素直な反応。心や身体が、意図せず勝手に動くということは言語の壁を越えた人間が持つ根源的な反応であり、それはどの国の人にとっても理解できることだったのではないか、と。また日本のドラマが多言語に翻訳されて観てもらえる機会はそもそも少ないと思います。そういう意味で、Netflixという媒体自体が持っているチャンスの広がり方を今回体験できました。
これまでの作品づくりとの違いを感じたことはありますか。
“テーマやお題に対して真摯に向き合う”という作品づくりにおけるスタンスは他の作品と同様です。ただ、この作品は、スケジュールや予算的に普段よりもできることが多かったことで、いろいろな意味で視野が広がったと感じています。やれることが多い分、いつも以上に大変なことも多かったです(笑)。コロナ禍ということも、長い年月を描くということも、実際の撮影期間が長いことも含めて、俳優やスタッフは本当に大変だったと思います。根気よく付き合ってくれた皆には感謝しかありません。
脚本・監督の寒竹さんは細部までとにかく拘る人。脚本開発段階で、タクシー会社、自衛隊、医療関係、火星探査機などなど、様々な文献を読み、取材が求められました。私はその都度、取材先を探し、例えばJAXAに資料提供をお願いしたり、名古屋まで自衛隊に話を聞きに行ったり色々な経験をさせてもらいましたね。詩がパフォーマンスするシーンをどのアーティストと組んで作るか、劇中に出てくる写真1枚に対しても、それぞれアーティスト自身が持つストーリー性や、作品が持つパワーを活かしたいという想いが強い監督です。ある時は天体写真家に、ある時はガラス作家に連絡を取り、京都の写真家や、インスタレーションをしているアーティストなど、1本の作品とは思えない様々なジャンルの人と出会うことができました。その拘りの1つが台本でした。本作の台本の表紙は活版印刷をしています。台本のデザインは私も俳優やスタッフに向けた最初のプレゼンだと思っていて、いつも作品の世界観を伝えられるようにと拘っていますが、まさか活版印刷で作るとは、ここまでやるかと驚きました。同じ労力のかけ方だとしても、思っていた以上にやろうと思えば、いろんなことがやれると勉強にもなりました。多くの拘りの積み重ねによって出来ているのが「First Love 初恋」です。
photography: Netflix
寒竹監督についてもう少しお聞きかせください。他の監督と違う点や、他の監督にはない点などはありましたでしょうか。
とにかく独自の美意識を持っています。画面内の色を2色相に統制したいと。1画面に2色。色を少なくしたいので、例えば防災センターのシーンで、晴道の警備服はブルー系だと、背景にあるファイルなどの小物も徹底的にブルー系で作っていきます。この辺はYouTubeにメイキング動画があるので、ぜひ見てみてください。付き合ってくれたスタッフは本当に大変だったと思います。ドラマを見た感想で、映像の美しさを上げていただくことも多いのですが、制作部が見つけるロケーションの説得力、撮影・照明部が作る映像の美しさ、美術・装飾・小道具・衣裳の徹底した色相の統制も含めた総合力がこの作品の世界観を作っていると思います。
監督に必要な能力として、物語を描くための最適な世界をどう構築できるかは重要なポイントだと思います。この作品の世界観を作る上で、寒竹さんの徹底した美意識と拘りの強さは最適だったと思います。しかし、脚本家も監督も、基本、孤独な仕事です。同じ熱量、同じモチベーションで一緒に寄り添ってくれる人がいる方が絶対的にやりやすいと思うので、たぶん、それがプロデューサーとしての私の役割だったのだと思います。
キャストについてお聞かせください。野口也英役の満島さんとご一緒されてどうでしたか?
満島さんは本当に熱量の高い人で、体中からパワーが溢れている、そんな人です。オファーした時、初対面にも関わらずドラマへの想いなどかなり熱い話ができ、でもまだ受けてくれるか半信半疑で解散して。翌日、寒竹さんと顔合わせした帰り道、タクシーを降りた満島さんは何故か涙が溢れてきたそうで、その感情を信じてオファーを受けてくれました。まだ脚本が出来る前の企画の早い段階で、満島さんの主演が決まっていたので、也英というキャラクターが満島さんと出会ったことによって変わっていった部分はたくさんあります。寒竹さんが元々イメージしていた野口也英は、おそらくもう少し内向きな人だったと思います。ですが、満島さんと話していく内に、過去に喪失感を抱えている人が、ずっと暗い人生を送っているわけではなく、日々の中に喜びを見出しながら生活している。ご飯がちゃんと美味しかったり、何気ない小さなことに、喜びを見出している人であって欲しい、という思いが私の中にも芽生えました。2話で雨に打たれながら旺太郎と思ったことと逆のことを言うゲームをするシーンがあるのですが、そういうちょっとしたユーモアというか、遊びのある人が也英です。ネガティブなことが起きてもただ落ち込むのではなく、笑いに変えていけるようなパワフルな部分ができていったのは、満島さんとの出会いの賜物です。
photography: Netflix
もう一人の主人公を演じた佐藤健さんはいかがでしたか。
オファーをして最初に佐藤健さんにお会いしたとき、前の作品の撮影直後というのもあって、すごく目付きが鋭かったんです。パブリックイメージにもあるクレバーで格好良い人、というのが第一印象です。ですが、晴道は30代半ばに差し掛かった、あと一歩でおじさんと呼ばれる世代の役です。また、7年も付き合った彼女との結婚になかなか踏み切れない、煮え切らないところもある、ダメな人でもあります。嘘をつけない素直さや、少年のようなピュアさ、ダメな部分も引っくるめて、愛すべきキャラクターにしたいと思ってました。
クランクインが防災センターのシーンだったのですが、その日は、初対面の印象とは全く違う、柔らかい眼差しに変わっていて。格好良い佐藤健ではなく、彼の柔らかい部分を引き出し、ちょっとおじさんに近づいた大人の晴道がそこに居ました。元々、佐藤さんが仮面ライダーをやっていた頃に作ったショートムービーの監督が寒竹さんで、さらにそれが寒竹さんの監督デビュー作だったという縁もあり、佐藤さんが晴道に決まったことで、晴道像はどんどん膨らみました。佐藤さんならアクションもできる。ならそれを活かさない手はないと。物語が充実したのは佐藤さんのおかげです。
photography: Netflix
その他、この出演者は印象的だったという方はいますか?
挙げればキリがないぐらい、素敵な出演者が集結してくれました。若い頃の也英を演じた八木莉可子ちゃんや、晴道役の木戸大聖くんも含めて、荒木飛羽くん、長澤樹ちゃん、若林時英くんなど若いキャストはほぼ全員オーディションをして決めました。オーディション時は、演技の上手さよりも、こぼれてしまう純真さみたいなものを重視していました。本作の立役者の一人、3話に登場する町田先輩役の斉藤天鼓さんは当初別の役でオーディションに来ていたのですが、町田先輩の方が合う!と思って、その場で町田先輩のシーンの台本を渡してお芝居してもらい、決定しました。こういう新しい出会いが沢山あったのも喜びの1つです。
難しかったのは詩の役です。詩というキャラクターの持つ自由を体現できる人がなかなか思いつかなくて。嬉しい偶然が重なり、巡り会えまして、アオイヤマダちゃんに決まりました。アオイちゃんご本人がフラッとエジプトに行くような自由な精神と行動力の持ち主で、詩の台詞を言葉にした瞬間の説得力が抜群でした。
photography: Netflix
大人キャストも皆大好きな人たちばかりで、語り始めると終わらなくなるのですが・・・幾波子役の小泉今日子さんや晴道の母・雪代役の渡辺真起子さんは主役二人の母親役ですが、作品にとっても母のような存在で、毎回お会いする度に温かい言葉をかけてもらい、二人の深い愛情に何度も助けられました。並木家は賑やかで撮影していて楽しかったシーンの1つです。父親役の岡部たかしさんは、最近ドラマ「エルピス」でも大注目されましたが、とにかくお芝居が魅力的。あがた森魚さんは可愛くてお洒落なおじいちゃんを飄々と演じてくれました。
行人役の向井理さんは、「わたし、定時で帰ります。」から3本連続ご一緒していて。行人のキャラクターは一見するとダメな人なんですが、かなりせっかちなところとか、占いとか信じない性格とか、癖のある部分も含めて、個人的にはかなり好きな役でして。こういう役を面白がってくれる俳優さんって貴重だなと感謝しています。
photography: Netflix
あとはひたすら夏帆ちゃん演じる恒美に感情移入してました。夏帆ちゃんは最初の本読みをした頃、直前まで引き篭もりの役をやっていてちょっと暗さがあったのですが、現場に来た時はもう「恒美」でした。台詞にニュアンスがあって、とにかく最高でした。旺太郎役は脚本開発の初期から濱田岳さんをイメージして作っていて、特に8話のターミナルでのシーンは、想像もしていなかった芝居に、思わずもらい泣きしました。美波さんと中尾明慶さん演じる優雨と凡二のカップルも魅力的で、中でも結婚式の誓いのキスシーンがとにかく可愛かったです。
井浦新さん演じる昭比古は、登場する6話も魅力的ですが、4話の冒頭、手紙の声だけで伝わる人たらしな父親像が素敵ですよね。ミュージシャンの曽我部恵一さんやKan Sanoさん、坂本美雨さん、さらに芸人の又吉直樹さんやドキュメンタリー監督の森達也さんなど多ジャンルの方々がカメオ出演していたり。やっぱり語り始めると終わらなそうなので、この辺りでやめておきます。
作品の内容についてもお聞かせください。也英がCDウォークマンで「First Love」を聞くシーンは、どのように撮られたのでしょうか。
ネタバレにもなるので、まだ未見の方はこのブロックは読み飛ばしていただきたいですが。あのシーンはこの作品のすごく大事なシーンの1つですが、実は満島さんがインして3日目の撮影なんですよ。いろんなスケジュールの中でそうなってしまい、クランクインは晴道の防災センターで、その次が也英のアパートのシーンでした。千歳のアパートのセット撮影が満島さんのクランクインだったので、3日目にあのシーンになりまして。まだ何の過去の出来事も撮影してないけど、あれを撮るという。満島さんがこの状況を逆に面白がってくれる人であったのが救いでした。
photography: Netflix
料理、食事のシーンも印象に残るシーンが多かったです。その他、監督がこだわった部分は?
たかはしよしこさんというフードスタイリストに入って頂きました。初めて、映画やドラマの撮影に参加された方だったのですが、シーンの意図をとてもよく汲み取って頂きました。本当にめちゃくちゃ美味しいんですよ。それはとても大事なことで、美味しいから、食べるシーンが楽しくなるんですよ。料理は見た目も大事ですが、やはり味がもたらしてくれる相乗効果というか。いい芝居になるというか。泣きながらでもナポリタンを食べられてしまうぐらい美味しいんですよ、というのをよく話していました。手話でも素敵な出会いがありました。脚本家もされている米内山陽子さんと、パフォーマーの南雲麻衣さんというお二人が手話指導をしてくださったのですが、とにかく二人とも脚本を読む力があって。優雨のキャラクターや、家族の中での手話の表現方法として手話が出来る人と出来ない人を作ったり、サインネームなども含めてディティールを一緒に作れました。
音楽にもかなり拘りました。編集をしている中で、色々な洋楽をかけたいという監督からのオーダーがあって、劇伴作家の岩崎さんに選曲をしてもらって、スウェーデンとかカナダとかいろいろな国の曲を使っています。それによってまた1つ世界観が広がったと思っています。
海外シーンのことも教えてください。
元々は最終話の海外パートは、アイスランドと、オーストリア、そのほか、ヨーロッパの複数国で撮影をするプランを練っていました。台本も今よりも海外シーンが多い予定で、也英が様々な国を旅するブロックを予定していました。ところが2020年にまさかのコロナ禍に突入し、時代が一変しました。それでも、オーストリアのコーディネーターさんに間に入ってもらい、アイスランドのプロダクションにロケハンしてもらったり、準備は続けていて。最初は半年もすれば落ち着くと思っていたので。ただ少しずつ、このウイルスは長引くなというのが見えてきまして。最終的に、いよいよ実際にキャスト・スタッフがアイスランドに行くのは難しいという状況が21年の秋頃に見えてきて、そこからリモート撮影での海外ロケに切り替えて準備しました。監督がイメージコンテを出し、アイスランドチームがロケハンして、次は日本でのガイド撮影、その次はアイスランドでの下絵撮影・・・など何度もやり取りしました。同じ撮影機材を揃えて、カメラアングルやレンズなどを細かく決めて、日本でグリーンバックで撮影して、アイスランドで風景や車などを撮影して合成しました。直接はお会いできてないですが、アイスランドのプロダクションやコーディネーターの方とは夜な夜なビデオ会議をしたり、ある時はリアルタイムで撮影を中継したり、悪天候と闘ったり、苦楽をともにした撮影仲間です。アイスランド政府が助成金を出し、撮影を支援してくれたことも大きかったです。撮影に向けて先走ってパスポートを更新したので、期限が来る前に、アイスランドに挨拶に行きたいと思っています。
銀世界のアイスラインドでの撮影の様子。photography: Netflix
本作は恋愛だけではなく、様々なテーマも描かれていました。
そうですね。普通に大人として生きていると、恋愛が全てにはならないじゃないですか。仕事の問題があったり、家族の問題があったり、悩みも人それぞれです。現実の世界において「初恋が全て」にはそうそうならないと思います。同時に、多くの人にとって、初恋以外の恋愛もあると思っていて、何十年も生きていると様々な恋愛があって当然だと思います。晴道にとっては恒美といた時間は紛れもなく大事だったし、初恋とは別物だったとしても、そこにはちゃんと愛があったと思います。也英もまた何かを失っていることは分かっていながら、事故のあと親や周囲から腫れ物に触るように気を遣われていた中で、唯一フラットに今の自分を受け止めてくれた行人に出会い、救われ、そこに惹かれていった。行人が居心地のいい場所になっていったという過去が絶対にあると思うんです。忘れられないしこりのようなものが胸の中にあったとしても、誰かと出会い、時に愛し、前を向いて進んでいった人生に意味がある。このような20年間の人生ドラマがあるべきだと。その先に、もう一度、元に戻れる喜びみたいなことを描けたらいいなと思っていました。
photography: Netflix
最後に、今後挑戦したいことがあれば教えて下さい。
すでに色々準備が始まっています。映画もドラマもどちらも、物語の中で、きちんと生きている人々を描けるのが最大の喜びです。自分なら絶対できない大胆な行動を取ってくれる主人公に心が救われたりとか、登場人物の誰かの優しい言葉に気持ちが楽になったりとか、そういう希望がある作品をこれからも作り続けたいと思っています。実人生の中で出会った人たちに影響されるのと同じように、私たちは映画やドラマや物語で出会った登場人物たちに影響されますし、そのキャラクターたちは自分の中で、生き続けるものだと思います。どんなジャンルでも、キャラクターが愛される作品をこれからも作り続けていきたいと思います。
- ※ 本インタビューは、CEグループ通信100号(2023年1月27日)に掲載されたものを編集・転載しています。