Interview
製作プロデューサーに聞く「ドライブ・マイ・カー」 アカデミー賞受賞までの軌跡
村上春樹の短編小説を原作として濱口竜介が監督・脚本を手掛けた映画「ドライブ・マイ・カー」は、第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、また日本映画作品として13年ぶりにアカデミー賞国際長編映画賞を受賞するなど2021年を代表する映画作品となりました。本作はカルチュア・エンタテインメントが共同幹事、C&Iエンタテインメントが制作を担当しています。企画段階から深く携わってきた製作プロデューサー後藤哲さんに「ドライブ・マイ・カー」について、またカルチュア・エンタテインメントの映像作品製作について伺いました。
「ドライブ・マイ・カー インターナショナル版」
第94回アカデミー賞® 国際長編映画賞受賞
ほか3部門ノミネート(作品賞 監督賞 脚色賞)
DVD・Blu-ray好評発売中
©2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
■プロフィール
後藤 哲(ごとう・さとし)
カルチュア・エンタテインメント 映像事業本部 副本部長 / カルチュア・パブリッシャーズ事業部長
広告代理店を経てレントラックジャパン(CCCグループ)に入社。その後、現在に至るまで映像関連事業に20年以上従事。製作幹事のエグゼクティブプロデューサーとして「もっと超越した所へ。」、「タクミくんシリーズ 長い長い物語の始まりの朝」、「劇場版 美しい彼 ~eternal~」など数々の作品に携わる。最新作として「鯨の骨」が2023年10月公開予定
「ドライブ・マイ・カー」はアートハウス系に分類される作品としては異例のヒットとなりましたが、感想をお聞かせください
「ドライブ・マイ・カー」の製作幹事であると言えば、誰もが称賛してくれるくらい国民的知名度のある作品となりました。これまでも様々な作品に携わってきましたが、これほど多くのメディアに取り上げていただき、社会現象化した作品の成功体験はありません。「ドライブ・マイ・カー」は、私自身においても得るものは多く、改めて本作品に携われて良かったと思っています。
後藤さんの本作品における役割を教えてください。
製作幹事のプロデューサーチームの一人です。共同幹事会社で配給担当でもあるビターズ・エンドの定井勇二社長と、小室直子(カルチュア・エンタテインメント)と私の3名で担当しました。製作幹事のプロデューサーは、製作予算を組み、全体の事業設計図を描いて、それらに沿ってプロジェクトを管理・調整していくのが役割です。また、DVDや映像配信など2次使用の展開や、製作委員会への出資会社とのコミュニケーション業務等も行っています。
最初、本作の企画提案があった時、どのような印象でしたか?
最初、C&Iエンタテインメント(以下、C&I)から山本晃久プロデューサーの濱口竜介監督企画があると相談がありました。濱口監督はロカルノ国際映画祭で受賞した「ハッピーアワー」や、C&Iエンタテインメントが企画制作した商業映画デビュー作「寝ても覚めても」等で国内外から高い評価を受け、今後の日本映画を背負って立つ映像監督の一人として認知されていましたので、以前より濱口監督が手掛ける作品にはぜひ関わりたいと話していました。濱口さんが監督で、原作は村上春樹さん、また西島秀俊さんの主演がほぼ内定していたこともあり、話題性や注目度も高い作品になると期待もありました。ですから「ドライブ・マイ・カー」の企画の話が来て早々に、当社が製作幹事となるべく動いていました。
本作のマーケティングプランはどのように練っていたのでしょうか。
まずは濱口監督の作品、村上春樹さんの原作ということで、カンヌかベネチアを目指そうと考えていました。国際映画祭に出品しコンペティション部門で何らかの受賞をすることで、話題性を高め劇場公開するストーリーを組んでいました。その結果、カンヌで4冠を獲得し、期待以上の成果をあげ、いざ興行へ…と運よくストーリー通りに進む手筈でした。ところがタイミング悪く新型コロナ感染が再拡大。カンヌでの話題性をうまく興行に繋げることができず、劇場公開当初は苦労しましたね。
米・アカデミー賞のノミネート作品に選ばれたことで一気に知名度を高めました。
秋に想定外でしたが北米で「ドライブ・マイ・カー」に注目が集まり、様々な名誉と歴史ある賞を獲得し、アカデミー賞レースにまで参戦することになった時は本当に驚きました。結果として日本映画初の作品賞、脚色賞など主要4部門にノミネートされたことにより国内での上映館数が200館を超える規模にまで拡大。アートハウス系作品では経験したことがないロングラン興行となりましたのでさすがに興奮しました。配給のビターズ・エンドさんにはアカデミー賞対応の劇場営業をして頂いたことに大変感謝しています。
「ドライブ・マイ・カー」が2021年を代表する映画作品となったことについて、どのように受け止めていますか。
「ドライブ・マイ・カー」が日本を代表する作品となったのは、ひとえに濱口監督の才能が世界に認められたことによるものです。このような才能の持ち主である濱口監督と一緒に仕事ができたことを嬉しく思います。今後も濱口監督や山本プロデューサーとのような出会いがあればと思っています。また「ドライブ・マイ・カー」のような機会が巡ってくる可能性がゼロではありませんので、これからも色々な企画に果敢にチャレンジしていきたいと思います。
後藤さんはアカデミー賞表彰式にも参加されましたがいかがでしたか?
カンヌ映画祭とはまた違うアメリカ的な派手さでとても華やかな雰囲気でしたね。授賞式来場者の多くが「ドライブ・マイ・カー」を観てくれていたようで、濱口監督や西島さんらキャストの皆さんは参加されている色々な人たちに話しかけられたり、写真撮影されたりしていました。
欧州での評判が米国にまで及んで、アカデミー賞獲得に至るまでとなりましたが、このことについてどうお考えですか。
濱口監督自身もそうでしたが、アメリカでこれほどまでに評価していただけたというのは意外でした。本作がカンヌで脚本賞を受賞したことを含め、原作が村上春樹さんだったことが大きく、村上春樹さんの海外で人気がこの映画を認知、拡大させるきっかけとなっていました。オバマ前大統領が、毎年、1年間にみた映画や本で良かった作品をTwitter(現:X)で紹介していますが、2021年のおススメ映画リストの一番上に「ドライブ・マイ・カー」がありました。また遡って2019年には原作の「女のいない男たち」が本のおススメリストに掲載されています。このことからも北米の知識層で間では村上春樹さんの評価がかなり高いと推察されます。海外では「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹さんや濱口監督など日本を代表する国際的文化人らが集結して作られた作品として受け止められているのでしょう。
作品作りについての考え方を教えてください。
カルチュア・パブリッシャーズは、当初、TSUTAYAに向けて価値あるコンテンツを調達・供給することを目的に、その流れで自分たちでも映像作品を作ろうということで映像製作がスタートしました。映画はヒットが難しいビジネスです。後発である我々が大手の作品と伍していくためには、オリジナリティの高い作品作りをしていかねばなりません。他社が躊躇するような尖った企画でもしっかりと結果を残すことができれば、映画業界の中でポジションを獲得でき、エンドユーザーの信頼を得られると考えます。そうなれるように常に挑戦者としてこれからも取り組んでいきたいと思います。
今後の作品作りについてお聞かせください。
「ドライブ・マイ・カー」という映画史に残る作品を生み出すことができ、とても誇りに感じています。今後も「ドライブ・マイ・カー」のような作品を製作していきたいと思っています。また、カルチュア・エンタテインメントグループは、映像以外にも様々なエンタテインメントビジネスを展開しています。グループが保有するIPやコンテンツを映像化し、その上でグループの様々な事業と連動しながらシナジーを発揮させることで、IPやコンテンツの魅力をより多くの人々に伝えていきたいと思います。